僕と魔法使いの会話-星を継ぐもの

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魔法使い

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「そういえばこれいつまで続けるの?」
 困った。
 またこの記事は〝魔法使い〟が質問するという始まり方をしたが、それにしても困る質問だ。
「なるべくね、続けたいという気持ちはあるんだけど……まあ、飽きるまでって答えになるね……だいたい僕、連続企画っぽいの飽きて放置してるじゃん?」
「あー……あー」
「ちなみにこれ読んだ本全てに書いていくつもりだけど、現時点ですでに6冊くらい貯まってるし、これ絶対どこかで義務感みたいなの覚えてつまんなくなるやつでしょ……」
「うっわ、ありそー」
 
 
 3月26日読了 星を継ぐもの

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

 
「いやこれめちゃくちゃ面白かったね。流石ロングセラーなだけある。やっぱり、ロングセラーな本は期待値高いよ」
「なんだかいわゆるオタクっぽい口調だね」
 〝魔法使い〟のうった嬉しそうな相槌に、僕は勢いは急停止した。
「あ、ごめん。つい思ったことを口にしちゃった」
「いやまあ、いいけどね。冷静になってみると確かにそんな感じあるし」
「さておきこれまで〝まあ、面白いは面白かったね、60点くらいかな?〟みたいなテンションで2冊ともやってて、正直〝あれー?これ企画倒れじゃない?困難で大丈夫?〟みたいな気持ちがあったから面白かったならノリノリでいってみよう」
「そだね」
 冒頭でも言ったが、いつ飽きるか分からないし飽きる前にちゃんと手放しで絶賛できる小説と出会えて本当によかった。
 
 
 
 
 「まあ、こういうのがあるところが小説を読む趣味の強さだと思うんだよね」
「いきなり変なこと言い出したね」
「ホーガンの星を継ぐものとかさ、まあめちゃくちゃ有名で色んな人が面白いっていっている本なわけじゃん」
「そだね。逆にそうじゃなかったら1977年の翻訳物SFなんて買わないというか、むしろ売ってないよね」
「そう、1977年なんだよね、書かれたの。他の僕が趣味にしているようなものだとやっぱりそのレベルで昔に作られたものって古さを感じてしまうんだよね、ゲームでも漫画でも。そりゃ時代を超える名作はあると思うし実際手塚治虫とか面白いと思うけど、やっぱりまあ表現技法の上達みたいなものはあると思うのよ」
「それに比べると、小説は劣化しづらいって話に繋げるやつ?」
「そうそんな感じ。まあ、現代文っていっても舞姫くらいになってくると文体が面倒で正直あまり読みたい感じじゃないけど、とはいえ10年20年くらいはまったく意識しないで読めるのは強いな、って。つまりまあ〝名作っぽいの読みたいな〟って思ったらこの市場規模と歴史で時の試練を生き抜いたような作品がまあ間違いなく数え切れないほど選択肢に上がってくるよね、っていう」
「まあ、安定感はあるよね」
「いやまあ、すぐ忘れられるようなインスタントな速さの娯楽もそれはそれで凄い好きだし、今表現技法が色々開拓されつつあるようなジャンルの成長を見ていくのもすごく楽しいんだけどさ」
「お、各所と衝突しないような無難なまとめ方だ」
「いや本心から言ってるし」
 
 
 
「さておきまあ、絶賛ポイントはどのへんにあるの?」
「うーん、僕あんまりSF読むほうじゃないんだけど、SFとかってなんか発達し過ぎた科学に警鐘を鳴らしたり、もー生物は戦争ばかりして愚かなんだからー、とか言い出しそうなイメージない?」
「あー、あるかも。っていうか実際多い気はするよね、そういうの」
「そのへん、星を継ぐものは科学と人間に対して肯定的でそのへんがまずめっちゃ良かった。」
「へー」
「なんていうか、〝あー、なんか人類に反省とか迫ってくる展開かなー〟とか〝この人視野は狭いかもしれないけど間違ってること言っているとは思わないんだけどなー〟って読みながら思ったけど、最後は信念すら感じる熱い肯定で終わったのがとにかくよかった」
「へー、まあ確かにそう言われるとなんでSF読んでて反省とか迫られなきゃいけないのか意味わかんないもんねー」
 
 
 
「あとまあ、読んでて思ったんだけどわりとSFのガジェット部分?みたいなのって大切なのかなー、って思った。特にこういう構造の話だと」
「と、言いますと?」
「例えば宇宙船がワープするとして、〝ワープした〟って書いても〝存在確率を低下・拡散させ、現宇宙の全ての空間で等確率の状態にし、てその後目的空間における存在確率を上昇させ実体を送り込む事によって通常空間に復帰した〟って書いてもまああんまり物語的に変らないわけじゃん。そりゃ、僕みたいなのはキャッキャと喜ぶかもしれないけど」
「いやまあ、SF読んでる人ってけっこうみんな喜ぶんじゃない?」
「ん、言われてみるとそうかも。さておき、星を継ぐものって最初に謎を提示してそれについて議論したり新たな事実を発見したりして進んでいく話なのね?ミステリみたいな構造なのよ」
「うんうん」
「でも、言ってしまえばSFの謎なんてどんな荒唐無稽な解決だって与えられてしまえるわけで、それを〝どんな解決が与えられるんだろう〟ってワクワクしながら読むためにはどこかで〝この作者は魅力的な謎に相応しい魅力的な回答を用意してくれているに違いない〟って信じることが必要になってくるわけ」
「なるほどなるほど」
「その信用させるための一番の方法は作中の議論が筋道が通っていていくつかの荒唐無稽な可能性をきっちりと否定することだと思うけど、そのへんの細かいSFっぽいガジェット描写でも〝ああ、この人はちゃんと知識や想像力があるんだな〟ってって信頼を勝ち取っていけると思うんだよね」
「なるほどー」
「わりと、僕は製作者のことが信頼しきれなくて魅力的な謎を十全に楽しめなかったことが何度もあるので、けっこう大切なポイントかな、って思う。ミステリで〝ん?この描写ちょっと変じゃない?〟って思っても筆が踊った程度にしか考えなかったら伏線でちゃんと考えてれば解けてたなー、とかそういう」
 あと、戦国コレクションの明智回はあんなに魅力的な構造の話だったのに、何も考えずにぼーっと観てしまったことはわりと今でも悔やんでいる。製作者を信じることができればもっと楽しめたはずなのだ。
 

 
「さて、今回はあんまり自分語りじゃなくて本当に作品方りする記事になったね」
「お、言われてみるとそうだね」
「でもまあ、お約束なので私が質問して君が困る流れをやりたいと思います」
 〝魔法使い〟はとびきり魅力的ないたずらを思い付いた子供のような笑顔で宣言した。
「それで、結局信頼した結果、魅力的な謎には魅力的な回答が提示されたの?」
 ――まいったね、こりゃ。
 この分かりきった質問に Yes と答えたら〝魔法使い〟はそれを結論にこの記事を締めるだろう。彼女の思い通りに終わらせるのはちょっと悔しいが、かといって No と答えるわけにもいかないし、ちょっと捻って〝それは読んだ人だけわかるのさ〟とでも答えても流れは変らないだろう。
「まあね」
 とだけ僕は短く答えた。
 これが魅力的な問いと魅力的な回答かどうかは自信がまったくなかった。