僕と魔法使いの会話-[映]アムリタ

芸風を一気に変えてみたけど、まあ、やってみたら面白いかもしれないし。


登場人物紹介




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魔法使い

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 僕には今しかない。
 時代の変化とか、自分自身の変化とか、年齢による周囲の視線の変化とか、知り合いの変化とか、色々と考えてみると今しかタイミングがないように思える。
「何が?」
 〝魔法使い〟が小首をかしげて尋ねてくる。
「うん、〝彼女〟とか〝天使〟とか〝死神〟とかそういう抽象的で非日常な名前の女の子とさ、日常のことを喋るような文章を書いてインターネットに投稿する行為ができるのは、今しかない気がするんだ」
「そうなの?」
「うん、なんかね、何年か後には時代遅れみたいな扱いをされる気がするんだ」
「そうなんだ」
「うん、そうなんだよ」
 だから僕は彼女――――魔法使いとの会話をこうして文章に興すことに決めた。
 
 
 
「で、これなんなの?」
「うん、この前読んでないと思ってた本を読んだらすでに読んだことがあって、しかもそれに8割くらい読むまで気付かないってことがあってさ」
「わー。わー……」
「素直にドン引きっぽい発言ありがとう。で、なんか最近読んだ本と絡めて何か話しておけば、なんかアウトプットするさいに思い出したり整理したりで記憶が促されたり、いい効果があったりしないかな、って感じの企画」
「つまり、読んだ本の感想を書くコーナー?」
「いや、どっちかっていうと読んだ本をだしにした自分語りのコーナーかな」
「つまりいつもの?」
「そ、いつもの」

 
 3月22日読了 [映]アムリタ


 
「なんというか、すごく僕が好きそうな作品だった」
「いや、あの、自分のことなのに〝好きそう〟っていうのはなんなの?それ普通に〝好きな奴だった〟じゃダメなの?」
「えー、なんだろ。こう、自分を外から観て〝あー、こいつはこういうのが好きそうなんだろうな〟みたいな?そういう感じ?川澄舞綾波レイが好きな人が長門有希をみたときに抱くであろう感情みたいな」
「なるほど。なるほどねー」
 〝魔法使い〟は納得したようにふんふんと頷いた。
 そして彼女の口から出てきたのは全然関係のない問いだった。
「君はさ、そういう無口とか黒髪ロングみたいな、属性でフィクションのキャラクターを認識する行為は個人を尊敬を持って認識していないような気がしてどこか嫌悪を持って認識しているんだよね?」
「まあ、 Yes かな」
「でも、やっぱり自分のことを考えてみると間違いなくそうやって属性で認識しているところは間違いなくある」
「…… Yes」
「でも、やっぱり〝好き〟には神聖なものであって欲しいからそうやって〝好きそう〟って言葉で逃げてるとか、そういうところない?」
「Yes, とはちょっと言いかねるけど、 No とも言いづらいかな。そういうところもある気はする」
 彼女はいつもこうやって僕のことをチクチクと責める。
「つまり言い訳だよね?そんな風に解釈できる行動を取っているけど〝ちゃんと分かっていてやってますよ〟って周囲にアピールしたいんだ?ばっかみたい」
「あはは」
 満面の笑みで〝魔法使い〟が言い放ったその言葉に僕は困ったような笑いで答えた。問いの答えは Yes な気がした。
 
 
「――――さておき、いくら読んだ本を題材にした自分語りとはいえもう少しくらい内容に触れないわけにはいかないよね」
 気を取り直して僕はそういった。
「そだねー。実際、何が〝好きそう〟な感じだったの?」
「うーん、色々あるけど。まず、かわいい後輩が出てくるところかな」
「あー、うん、好きそう」
「あとはまあ、全体的にちょっと面白くて読みやすい一人称視点とか、傑作の価値は人の命よりも高いかもしれないみたいな価値観とか、人の心は所詮物理現象だから外からいじれるけどやっぱり尊いものであって欲しいみたいな願いとか、最後のシーンにあらわれる後輩の女の子の人間性とか、なんというか一つ一つの小道具が〝ああ、僕が好きそうな奴だ〟って感じ」
「ふーん、でもそんなでもなかったんでしょ?」
 彼女がいたずらを仕掛けた子供のような笑みで問いかけたその言葉に僕は困ってしまった。
 それは彼女の言葉が的外れだったからではなく、まさにその通りだったからだ。
「うん、そうだね。一つ一つの要素は僕の好きそうなもので、やっぱりそこそこ面白いものに仕上がってると思うんだけど。やっぱりそこそこだったかな」
「そんなに好きそうだったのに、なんで?」
「やっぱり、〝好きそう〟というのはね、それが既知のパターンだからだと思う。これまで見てきたもの、好きになったものから、共通のパターンを取り出したのが〝好きそう〟なわけだけどやっぱりそれは見たことあるものなんだよ。見たことがあるものからはそんな感動や衝撃はない」
 そう、結局僕は[映]アムリタからそんな衝撃も感動も受け取ることはできなかった。読んでいてそこそこ面白く、そこそこハラハラして、そこそこにラストにびっくりしたが、全てそこそこだ。
 面白かった。その感想に嘘はない。でも、この作品を1年後2年後に思い出したとして、このとき感じたハラハラやびっくりを生あんましく思い出せるだろうか?僕の胸に芽生えたのはそういう類の感情だった。
「いやまあ、それでもやっぱり面白かったし、またこの作者の本を読むと思うけどね。実際、この作者の野崎まど劇場の方は感動的だったし未知のパターンに溢れていたし」
「そっか、次読む本も感動的だといいね」
「うん、そうだね」
 
 
 
「さておき、この本に出てくる後輩の女の子はすごくかわいくて僕の好きな奴だった」
「後輩キャラ好きだもんねー」
「うん、まさに僕の好きそうな奴の一つって感じ。そういえば君にちょっと似ているかもしれない」
「それって告白だったりする?」
「No」
「なんだ、つまんない」
 最後の問いは本当にくだらなかった。
 いくら僕だって、僕が台詞を考えるのをやめたら二度と喋らなくなる脳内の人格に恋をするようなことはない。