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僕と魔法使いの会話-1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編後編

登場人物紹介


一人称は「僕」

魔法使い

魔法を使う。



3月30日読了 1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編
4月13日読了 1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉後編

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉後編 (新潮文庫)

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉後編 (新潮文庫)




「と、いうわけで全6冊のうち2冊を読みましたが、いつもの読んだ本を種に自分語りをするコーナーの前に言っておくことがあります」
「お、なになに?」
 僕は自分の発言の効果を上げるためにあえてすぐには答えずまずは頷きで答えた。
「いや、僕正直、この作家が何を書いてるのかよくわからないよ、って話を最初にしておこうかな、って」
「えー……」
「いや、正直、なんか作品の上澄みをさらっと消費しているような罪悪感もないことないし、なんか理解している人だと思われても困るなぁ、って」
「それが最初に言うこと?なにそれ文学コンプレックスの仲間?ばっかみたーい」
 〝魔法使い〟はけらけらと無邪気に笑った。
「まあ、別にいいんだけどさ。全然分からないっていうわりにはけっこう読んでるよねー。なんだかんだでこれ読んだら文庫化してるのはほとんど読んでるんじゃない?」
「まあ、そのへんは既知のものでは感動できないっていう話と一緒で、何書いてあるか全部理解できるような小説はそんな面白くもないっていうのはあるよね」
「あ、それちょっとわかるかも」
「あとまあ、なんだかんだでロングセラの本ってそれなりに人を引っかけるフックが多いみたいな感じあるし。こう、〝よくわからんけど何かあるに違いない!〟みたいな凄みと多くの人間をひっかける即物的な面白さを併せ持ってる的な」
「そんなもんかねー」
 自分からこの話題を始めておいて、〝魔法使い〟はそろそろどうでもよくなってきたということを隠そうともしない相槌を打つ。
「あ、そういえばロングセラの話はこれで2回目だね。既知のものでは感動的な話は3回くらい触れてるし、よく出てくる話題は考え方の中心とか問題意識だから要注目だぜ Check it out!」
 〝魔法使い〟は両の手でフレミングの法則を作って前に突きだした。本人はキャラ崩壊芸のつもりかもしれないけど、言うほどキャラ固まってないしそもそも前回のほうがよほど崩壊していたからね?




「けっこうこの作家長い間追ってるけど、他になんか面白コンプレックスみたいなエピソードないの?」
「人のコンプレックスを面白がらないでよ……」
「Check it out!」
 〝魔法使い〟は両手フレミングした。
「それ気に入ったの……?話と関係なくやるのやめなよ……なんか見ている方が恥ずかしいよ」
「はーい」
「別に〝魔法使い〟ちゃんが望んでるような面白コンプレックスの話じゃないんだけどさー」
「うんうん」
「なんか、この作家昔はもっと個人の心の話を書いてた気がするけど、最近(っていっても普通に生まれたくらいの頃の話だけど)この人の興味というか想像力みたいなものが歴史の持つ力とか、人を苦しませる構造を生み出す力学とかなんかそういう感じの方向性になってるなー。もっと個人の話をして欲しいなー、って密かにはぐれたと感じてたんだけど」
「流石、なに書いているかよくわからない作家と言ってるだけいってなんか漠然とした話だね」
「まあ、漠然とした感覚だったけど。さておき、そんなこと思いながら読んでみたら歴史と宗教の話でなんか笑った。なんか、〝まさに!〟って感じで」
「うん、わりと面白エピソードだよ」
「ありがとう」
 


「んー、ところでじゃあまさにあんまり興味ない話題でいつもの〝うん、60点くらいに面白いね〟みたいな評価なわけ?なんか、〝魔法使い〟の私としてはせっかく記事を書くんだったらそういうのわりと避けたい感じなんだけど。高得点じゃないならいっそ0点のほうが面白いしー」
「多分、0点の本があったら最後まで読めないから記事にならないけどね……。あと、そんないつも60点じゃないよちゃんとホーガンべた褒めしたよ……」
 僕も自分の感動する能力の低下にはちょっとつらいところがあるんだからあんまり責めないで欲しい。なんか、前はもっと一冊読んだらそれなりに得るものがあったし、アニメとかも1クールみたらそれなりに思うところがあった気がしたんだけどな……。
「あとまあうん、まあ正直、かなり面白かったよ……。まだ途中だからなんとも言えないところがあるけど」
「なんで、ちょっと不満げなの……あっ」
 〝魔法使い〟の顔がぱぁ、と明るくなる。
「もしかして何かのコンプレックス!?世間的に評価されまくりな作家の本を評価するのがなんか嫌だとか!あるいは逆にインターネットでは馬鹿にされがちな作家だし誉めると権威主義者みたく思われそうで恥ずかしいとか!」
 なんでこの娘こんなに人のコンプレックスが好きなんだろう……。
「君さ」
「はいはい」
「友達いる?大丈夫?」
「いや、君の脳内パーソナリティなんだから、君が考えてくれないと友達とかできないからね?あと、脳内パーソナリティときゃっきゃと会話している人がそれいうのギャグかな?」
 まあうん、ごもっともだ。



「楽しかったならなによりだけどさ。ここまで何を書いているかよくわかんないって話しか聞いてないけど虐に何が楽しくて読んでる感じなの?」
「んー……上手くいけないけどまず人間の描写が面白いと思うかなー。本当に上手くいえないんだけどさ」
「じゃあ、下手に言ってみ?聞いてあげるから」
「生々しいとかね、リアリティがあるとか、バリエーションが多いとかそういうことではないんだけど。正直、〝はいはい、またちょっとやれやれ系でセックスの上手い男ね〟みたいな気持ちがないでもないし」
「パスタは茹でたり、ビールを飲んだり?」
「えーと、まだ茹でてなかった気がする。ビールはどうだっけ。さておき、でも人間がただ過去こういうことがあってこういうことを考えているっていうことを書くだけでそれなりに面白いんだよね、あの作家。想像力が感じられるというか」
「ふんふん」
 〝魔法使い〟は二度ほど頷いて
「本当だ、全然上手く言えないね」
 と、笑った。
「話に関してはどうかなー。いや、けっこう面白くてやっぱり続きが気になるんだけどさ。えー、この前魅力的な謎をワクワクしながら読むには信頼が必要だって話したじゃん?」
「お、2回目の話だ!Check it out!」
出た!〝魔法使い〟さんのダブルフレミングだ!
 彼女の話題に出した回数が多ければ多いほど、思考の中心という話を採用すると僕の思考の中心は〝Check it out!〟ってことになりかねないからな……。
「さておき、まあ信頼するにはこの作者なに書いてるか全然わからないからなー。ワクワクしながら読んだら観念的でようわからん結末で終わるってことも全然あるから話の面白さは素直にワクワクしづらいんだよね……。謎の組織、謎の現象、多くの謎と明かされる二人の繋がり、この二人は出会うのか、って感じでかなりワクワクはワクワクなんだけど」



「あ、そうだ!あと、個人的にかなりの激アツポイントがあるから、そこは触れておかないと」
「お、なになに」
「えー、まず前段階として僕が村上春樹で一番好きな作品を聞かれたら(メジャー作品上げたくないとかこういのが好きな人間だって言う自己紹介とか込みで)、多分〝とんがり焼の盛衰〟って答えるんだけど」
 そういうの抜きだと世界の終りとハードボイルド・ワンダーランドかな。
「うんうん、それでそれで」
「それがまあ文壇みたいなのを小馬鹿にした感じの話なのね?けっこう反権威的というか。でも、それ書いたの1980年代だし、こういうのもう書かないかなー、って漠然と考えてたのよ。でも文壇をこけにすることに熱意を燃やす人が出てきて〝あ!あれからずっとそういう感じだったのな!〟みたいな!いやー、熱いね!最高!」
 それを聞いて、〝魔法使い〟は唇に軽くつまみながらしばらく考えていたが、納得したように頷いた。
「うん、全然共感できない。まあでも――――楽しそうに語る君を見るのは好きだよ」
 これを読んでくれてる人もそう思ってくれればいいんだけどね、と〝魔法使い〟は軽く苦笑して付け足した。